観光産業は、投資を呼び込み、雇用を創出し、輸出を増やし、また新しい技術が流入するなどプラスの影響がある一方で、さまざまなマイナス影響ももたらしています。国連環境計画によると、このまま何も対策を行わなかった場合、観光産業全体は2050年までに、エネルギー消費量が154%、温室効果ガス排出量が131%、水消費量が152%、固形廃棄物処理量が251%増加すると予想されています。サステナブル・ツーリズムに取り組むと、観光地域の保護や保全に加えて、良い形での成長を促せるので観光産業自体を持続可能な形に変化させることが可能です。また現地の人材など、経営資源を最大限、有効に活用することや、消費者や世界で求められているニーズに対して応えることが可能です。また、リスク管理を行うことで、気候変動などによる災害が起こった際の回復力(レジリエンス力)も高めることができます。逆にきちんと管理せず、取り組まない場合、天然資源の枯渇や、環境汚染、観光によるインフラ整備などによる生態系の破壊を招く恐れがあります。また、環境に関するものだけでなく、現地のコミュニティーの文化自体が商品化してしまい、地域独自の価値観やアイデンティティを失うことで、住民同士の摩擦や苛立ちに繋がる可能性もあると言われています。
サステナブル・ツーリズムの概要を理解したところで、ミレニアル世代やZ世代の欧米旅行客の意識変革や行動変容や同世代に対する呼びかけについて紹介します。
海外へ行くと、これまで知らなかった文化や人々の生活に触れることで視野を広げることができます。だからこそ、観光地を訪れる前に、その地域の歴史や伝統、エチケットなどを知り、現地の言葉でいくつかのフレーズを学びましょう。一部の地域では、特定のジェスチャーや服装、言葉が不快とみなされることもあります。宗教的・精神的な場所を訪れるときは靴を脱ぐ場所、肌を覆う、声を抑える、あるいは写真撮影禁止の場所もあるため注意する必要があります。それだけでなく現地の交通ルールや慣習など、地域のガイドラインに従って、将来同じ場所を訪れた人も楽しめるように、地元の人々や環境に配慮し、尊重しましょう。これは、写真を撮る際は彼らのプライバシーを尊重し、事前に許可を取ることも含まれます。どんな場所も、訪れている場所は他の誰かの大切な場所であることを忘れてはいけません。
毎年800万トンものプラスチックゴミが海に流れ込んでおり、2050年には魚の量を上回ると言われている深刻な海洋プラスチック問題。近年は消費者はもちろん、企業や政府が使い捨てプラスチックに対する取り組みを強化していますが、回復しつつある観光産業では、予防策として使い捨てプラスチックを使用しています。多くの国ではゴミを処理するための廃棄物管理のシステムが不足しています。埋立地に山のように積み上がったゴミ山を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。</p><p>観光客が使用するプラスチックで1番多いのは、飲料のペットボトルですが、マイボトルを持参することで解決できます。もし、現地の水質が気になる場合は、浄水器付きのものを使用しましょう。また、食べるものを変えることもプラスチックの削減につながります。例えば、食事はテイクアウトではなく店内で食べることで、使い捨ての容器やカトラリーを使わずに済みます。また屋台では、生分解性のコンポストできる入れ物の利用や、容器を持参する観光客も増えています。お酒やジュースを飲む際は、バーテンダーにストローは不要であると伝えることも重要です。
国立公園、海洋保護区、その他の保護地域は、地球の天然資源と生物多様性を保護する上で重要な役割を果たしています。多くの国では、これらの特別な場所や動物を保護するために、入場料などの観光料金に依存しています。毎年80億人を超える人々が世界の保護地域を訪れ、約8,500億ドルの支出を生み出しています。これらは、地域を保護するために必要な保全活動に資金を提供すると同時に、地域社会の収入として地元経済を支えています。しかしコロナによってこの収入が絶たれると、世界中で密猟や違法な森林伐採は増加し、多くの保護地域や絶滅危惧種が危険に晒されました。今後観光を行う際は、訪れる場所の一つに国立公園や保護地域を追加し、ガイドラインに従った責任ある行動でサポートを行うよう呼びかけが始まっています。
環境への影響を減らし、地域社会の発展に貢献している宿泊施設や旅行会社を探す旅行者が増えたことで、一部の宿泊施設や旅行会社は、サステナビリティを重視して方向転換をおこなっています。しかし、まだ多くの企業がその価値には気がついていません。また「グリーン」や「サステナブル」なことを謳っていても、必ずしもそうだとは限りません。彼らのエネルギーや水に対する取り組みは?使い捨てプラスチックへの対策は?管理職に地元の人々を雇っていますか?地域コミュニティーや生産者を優先していますか?旅行者には、実施している内容や方針に関する情報を確認し、曖昧な点は質問するよう呼びかけています。また、他の旅行者がサステナブル・ツーリズムに興味を持てるよう、オンラインでのレビューも残す動きも始まっています。