サンゴ礁は、海の熱帯雨林と呼ばれるほど多くの生物が暮らしており、また光合成によって二酸化炭素を吸収することで地球温暖化の抑制にも貢献しています。しかし、世界の平均気温の上昇を1.5度未満に抑えることができたとしても、海水面の上昇や海水温の上昇により、70-90%のサンゴ礁が死滅すると言われています。このままでは海の生態系が失われるだけでなく、私たち人間も魚が食べられなくなるなど、深刻な影響を受けることになります。今回はこのサンゴ礁の保全に向けて取り組んでいるNPOや企業の取り組みについてご紹介します。
サンゴが重要視されている理由
サンゴ礁は海洋全体のたった0.2%しか占めていませんが、海洋生物の25%に住処を提供しています。また、私たち人間の暮らしにも重要な役割を果たしてくれています。海をカラフルに彩る観光資源としてはもちろん、豊かな漁場を提供する産業資源であり、台風や津波などの洪水被害から私たちを守ってくれる自然の防波堤としても活躍しています。
さらに、サンゴは共生する褐虫藻の働きにより、木と同様に光合成を行い、海水中の二酸化炭素濃度の調整役も担っています。その量は熱帯雨林に匹敵するほどの二酸化炭素を体内に留めているといわれており、地球温暖化の抑止にも大きな役割を果たしています。
サンゴ礁の危機的状況
しかしそのサンゴ礁は現在、地球温暖化による海水温の上昇や、海水面の上昇、海の酸性化などで危機的な状況に陥っています。世界全体で気温上昇を1.5度未満に抑えられたとしても70-90%が死滅し、2度上昇すると99%が死滅すると言われています。
この数値をみると、手立てが無いように感じてしまいますが、サンゴ礁の保全や養殖に取り組んでいる企業やNPOについてご紹介します。
Coral Vita
Coral Vitaは、陸上でサンゴを育て、海に植え直すことで瀕死のサンゴ礁を活性化させる活動をしている企業です。2017年に設立し、カリブ海・バハマ島を拠点とする世界初である商業用の陸上サンゴ養殖場をつくりました。
Coral Vitaでは海ではなく陸に養殖場をつくることにより、災害や水質汚染などのトラブルを受けずに、成長条件を完全に制御することで、より大規模な修復活動と、生息海域外の貴重で絶滅の危機に瀕しているサンゴ礁の生態系を多く復活させる取り組みを行っています。
その手法は、世界中の海洋研究所で開発された最先端の技術を使用しており、サンゴの生存を脅かす温暖化と酸性化の海に対する回復力を高めながら、自然界の50倍の速さでサンゴを成長させ、可能な限り最も効果的な方法でサンゴ礁を復元しています。
そして、Coral Vitaでは、ウェブサイトを通じてサンゴの養子縁組を実施しており、個人でサンゴを購入することができます。もちろん家族や友人などにプレゼントすることも可能です。購入後は証明書が送付され、サンゴの成長過程や、さらに熟成したサンゴを礁に植え付けた後の海の中での状況もメンバーポータルから確認することができます。
さらに、観光業界(ホテル・リゾートやエコツーリズム運営会社など)に対し、その土地に適した珊瑚を生育することによって海洋生態系を回復させると同時に、集客に貢献することにも取り組んでおり、サンゴ礁回復に関連した経済の活性化にも注目しています。
Coral Gardeners
Coral Gardenersは、フランス領ポリネシアにあるタヒチの姉妹島であるモーレア島の若いサーファーと漁師のグループによって2017年に設立された非営利団体です。彼らは、モーレア島周辺のサンゴ礁の急速な劣化を目の当たりにし、サンゴ礁の危機を解決するために活動を始めました。
海に生命を取り戻すために、水温の上昇と海の白化現象に耐える耐性の高い「スーパーコーラル」を特定し、育て、植えることで、瀕死のサンゴ礁の復元をしています。現在までに、15,000を超えるサンゴの植え替えを行っており、AIとスマートセンサーを使用したReefOSでサンゴの苗床をリアルタイムで観察および監視して、サンゴ礁の回復に役立てています。
そして、この活動をソーシャルメディア、イベント、アンバサダーを通じて広めることで、世界中にサンゴの重要性についての認識を高めることに専念しています。 Coral Gardenersのウェブサイトでは、サンゴを25ユーロから購入でき、名前を付けて成長をサポートすることができます。また、植えられている場所や現在の状況をライブストリームで都度確認することも可能です。さらに、サンゴの園芸について学び、サンゴを直接植えに行く海の庭師になることができるエコツアーを通じて、海洋環境の保全に対する意識を高めることにもつなげています。
Coral Guardian
Coral Guardianは、国際的に活動している2012年に設立されたフランスの非営利団体です。サンゴ礁に依存している地元の人々を巻き込むことで意識を高め、科学的発見に参加することで、サンゴ礁の生態系を保護することを使命に活動しています。
参加型プロジェクトの一つでは、地域住民と協力し、ダイナマイト漁により損傷したサンゴ礁の復元をしています。地元住民の意識を高める意識向上プログラムを実施し、サンゴの回復を通じて、持続可能な漁法の使用を促進するなど地域社会への教育も行っています。
同社の、「サンゴの養子縁組」プログラムでは、30ユーロでサンゴに名前を付け、購入することで誰もが海の保護に貢献できます。この取り組みによって、Coral Guardianの創設以来、40,000を超えるサンゴが移植され、4年後に復元された場所には30倍近くの魚種が存在する生物多様性を取り戻すことができました。
その他にも、サンゴ礁の重要性と直面する危険性を人々に認識させるための意識向上キットの開発や、さまざまなイベントを通じて国際的に意識を高めています。 また、人気のある科学記事、科学研究への参加、およびそのデータの共有を通じて、海洋科学をより利用しやすくすることを目指しています。
まとめ
サンゴ礁は、海洋全体の二酸化炭素の濃度を調整したり、海の生態系の25%を占めており、私たち人間にも多くの恩恵をもたらしてくれています。
サンゴ礁の白化現象は、地球温暖化だけではありません。海洋プラスチック問題や有害な化学物質なども原因となっています。実際、私が愛用している同じメーカーの日焼け止めを昨年と今年のもので比較してみると今年のパッケージには「ビーチフレンドリー処方」と記載されており、少しずつ変化していることを感じます。しかし、これはほんの一部に過ぎません。
サンゴ礁の養殖は、ひとつひとつを見れば小さな変化かもしれません。しかし、これらの活動を通じて海洋環境の保全に対する意識を広めることができれば、やがては大きな波となり、サンゴ礁を救うことが出来ると思います。国内でもこれらの活動がより多くの人に認知されることを期待します!
<参照>
https://coralgardeners.org/
https://www.coralguardian.org/
https://www.coralvita.co/
https://www.climatecouncil.org.au/resources/impacts-degrees-warming/