サステナブルツーリズム – earthexplore

美しい自然と水を守り、持続可能な町を目指すイビサ島サン・アントニ

美しい自然と水を守り、持続可能な町を目指すイビサ島サン・アントニ

※本記事は、株式会社アスエクが運営する「earth sustainability」からの転載記事となります。 サン・アントニ・デ・ポルトマニ(Sant Antoni De Portmany、以下、サン・アントニ)は、スペイン・バレアレス諸島のイビサ島の西に位置する美しい海と自然に囲まれた町です。透き通った海の水、白い砂浜、そして、絶景のサンセットが見れることでも有名なリゾート地で、特に、5月から10月はハイシーズンとなり、イギリスやドイツ、フランス、イタリアなどといった近隣諸国から訪れる人が絶え間なく、絶大な人気を誇っています。 世界が認めるパーティーアイランドとしてもカルト的人気を誇っているイビサ島ですが、2番目に大きな町サン・アントニでは現在大きな変化が訪れています。観光客が増加し続けるオーバーツーリズム、それに伴う騒音やゴミ問題が発生し、深刻な環境破壊が懸念されるようになりました。そこで、美しい自然や水、町の景観を守るために自治体が立ち上がり、再生計画に乗り出しました。 主な活動としては、ナイトライフ目当てのツーリストではなく、家族連れや年齢層の高い観光客を増やすために、昼間のアクティビティやここでしか見れない美しい自然を前面に出し、ナイトクラブやバーなどの深夜営業を行うナイトスポットから、レストランやケータリング施設などへ事業転換させることを目的としています。また、その費用は欧州復興基金「NGEU (Next Generation EU)」から支援されることが決定しており、ナイトスポットが多数点在しているヴァラ・デ・レイ通りはすでに改造工事に着工しています。それ以外にも、投資家やホテルチェーンが多額の予算を投入し、リニューアルし、ラグジュアリー化させるホテルが次々と建設されています。星のグレードをあげることによって、富裕層のゲストを増やしたいといった目的や町の変化に合わせた先行的な動きのようです。 筆者が訪れたのは9月末ですが、すでにハイシーズンも後半に差し掛かっており、観光客はそれほど多くはなく、高齢者や家族連れも目立っていました。パーティー目的の若者で溢れ返っていることを想像していましたが全く違っており、町はとても閑静で、少し行けば大自然が広がっており、空気が澄んでいて、とてもリラックスできる贅沢な環境です。 ツーリストも協力する徹底されたビーチクリーン 特筆すべきは、町にもビーチにもゴミがほとんど落ちていないことです。サン・アントニには、町の中心地から徒歩圏内にいくつかのビーチが点在していますが、ビーチクリーンが徹底しています。どんなに小さなビーチであっても必ず監視員が2、3名常駐しており、遊泳禁止エリアに入る人がいないか、違法行為がないか、ゴミの不法投棄はないかなどチェックしています。また、ビーチの入り口には注意事項が書かれた大きなボードが設置されており、誰でも確認することができます。 ビーチにいる間に目にしたのは、監視員と地元住民と思われる少年が一緒になって、砂浜と海中のゴミ拾いを行っている微笑ましい姿です。ここまで徹底したビーチクリーンを行っていながらも残念ながら100%ゴミがなくなることはなく、魚が泳いでいくのが分かる透き通ったキレイな海の中にも少量のプラスチックゴミが浮かんでいるのを発見してしまいました。しかし、見る限りルールを破っているような人はおらず、設置されているゴミ箱の周りでさえ、キレイに片付けられており、今後は更に改善されていくように感じました。 バイオテクノロジーと海洋植物による自然保護の未来の形 2022年5月にオープンしたばかりの「BIBO PARK Ibiza Botánico Biotecnológico」にも訪れましたが、ここは、最先端技術を取り入れたバイオテクノロジー・ガーデンであり、イビサ島で生息する植物や近隣の島に生息する絶滅危惧種を含む植物の保護に重点を置いている自然保護植物公園です。広大な敷地内には植物だけでなく、自然と住みついたヤモリやカタツムリ、カラフルな蜘蛛などの動物の姿を見ることもできます。 また、同公園では、持続可能な最先端技術を駆使して植物の実用的な応用にも力を入れています。そのひとつが、入り口近くにあるのが藻類を使った光バイオリアクターです。これは、円状に連なった透明のチューブ内で藻類を培養し、発電から炭素隔離まであらゆる用途に利用できる装置です。 また、バルセロナを拠点とするバイオテクノロジー企業「Bioo社」が開発した生物電池「Bioo Panel」も設置されています。Bioo社は、土壌有機物から発電し、農業用センサーに電力を供給するための生物電池を製造しています。生物電池は、生物の機能を利用した電池の総称です。酵素や微生物の生化学的なエネルギーを電気エネルギーに変換することで発電を行います。 IBIZA BIBO PARKでは、有機物から微生物が生み出す電気を集めてバッテリーを充電し、その充電で携帯電話やバッテリーを充電することが出来ます。 Bioo社は、生物から作れる持続可能な電力を大都市に供給することを最終的な目標として掲げています。ますますデジタル化が進み、異論可能性を秘めている生物は絶対に絶やしてはいけない存在となっています。それらが組み合わさったバイオテクノロジーは今後より一層注目を集め、研究と開発が進んでいくことを実感することができました。 実際に装置を見ながら詳しい説明を聞いても専門的な内容が多く、全てを理解するのは難しいですが、ますますデジタル化が進み、異論可能性を秘めている生物は絶対に絶やしてはいけない存在となっています。それらが組み合わさったバイオテクノロジーは今後より一層注目を集め、研究と開発が進んでいくことを実感することができました。 洞窟の中にある水族館で海洋植物が水の汚染を防ぐ もともとは、伝統的なロブスターの洞窟だった場所をそのまま活かした水族館「Aquarium Cap Blanc」にも訪れました。これまで人工的な水族館しか見たことがなかったため、ほとんど自然の力で保たれている天然水族館の存在に驚きました。20世紀初頭、ロブスターは生きたまま洞窟に保存され、養殖場を備えた蒸気船でバルセロナや他都市の市場へ運ばれていた歴史があります。スペイン内戦後に起きた国内外での様々な紛争により、徐々に減少してしまい1940年代半ばには完全に放棄されてしまい、1989年にイビサ島で最初の水族館として利用されるようになりました。 同水族館も海と同様に透き通ったとてもキレイな水が特徴的ですが、5つの入水口が異なる場所に配置されていることから、酸素の循環と水の再生が絶え間なく行われるという画期的な仕組みになっています。他にも海洋植物のポシドニア・オセアニカが水中で草原を形成し、光合成することによって、たくさんの酸素を供給する役割を果たしています。このポシドニア・オセアニカのおかげで、イビサ島近海には約250種以上の生物が生存しているといいますが、水族館にいた魚たちもとても生き生きして、幸せそうにさえ見えました。 「Aquarium Cap Blanc」には、カロ・デ・モロビーチから歩行者専用道を歩いて行くことも可能となっており、その他に、サン・アントニ港から毎日出航しているボートで行くことができます。入り口にはテラス付きの小さなバーがあり、イワシのグリルやサングリアなどのカクテルも味わえます。目の前の海から絶景のサンセットが見えるベストポジションとも言えます。 環境破壊、景観破壊などの問題からナイトライフから昼間のアクティビティ目的のツーリストを増やすプロジェクトに尽力している現在のサン・アントニですが、町の清潔さからすでにパーティーアイランドのイメージはなく、イビサ島に対するステレオタイプは完全に払拭されました。しかし、そこにはリゾート地にとって絶望的なコロナ禍の危機を乗り越え、伝統文化と自然を守りながら新たな観光客を呼び寄せたいといった地元の人々の強い思いと努力によって成功し始めているのです。 ここにしかない美しくて豊富な自然は絶対破壊されてはならない宝物であり、観光客がマナーやルールを守り、町に協力することは何よりも重要なことだと実感しました。 協力: Visit Sant Antoni (https://visit.santantoni.net/en/)