国内外の旅行が活発化しています。ホスピタリティ産業でもサステナビリティの考え方が浸透しつつあります。例えば、フライトやホテルの予約を行うウェブサイトでは、環境配慮や環境負荷がより小さい選択肢が表示される機会が増え、一部のビジネスモデルが変わろうとしています。本記事は、愛媛県西条市にオープンしたゼロエネルギーホテル・ITOMACHI HOTEL 0を紹介します。
「糸プロジェクト」について
糸プロジェクトは、愛媛県西条市に新しく誕生した再生可能エネルギーと地方創生をテーマにした街である「いとまち」に集まる人びとのための参加型プロジェクトです。「いとまち」という名前には、この場所で新たに挑戦する人の未来へのチャンスを「紡ぐ」という意味が込められています。
糸プロジェクトは、「エネルギー」「テクノロジー」「グリーンインフラ」「食」「建築」をキーワードに、遊びやすく暮らしやすい自然溢れる街づくりを目指しており、愛媛県西条市で半導体装置部品などを製造している株式会社アドバンテック(以下、アドバンテック)と建築家の隈研吾氏と東京大学の隈研究室メンバーが主導しています。
いとまちは、住宅ゾーンと商業ゾーンに分かれています。住宅ゾーンには、戸建て住宅が建設され、魅力的な街づくりが行われています。一方、商業ゾーンには、マルシェやレストラン、ホテルが併設されており、地元の名産品や工芸品などを購入することが可能です。
いとまちについて詳しくはこちら
愛媛にオープンしたITOMACHI HOTEL 0
2023年5月27日、いとまちに日本初となるゼロエネルギーホテル「ITOMACHI HOTEL 0」がオープンしました。ITOMACHI HOTEL 0は、アドバンテックとホテルの事業企画及び運営業務を行う株式会社GOODTIMEが共同で運営しています。
アドバンテックは、2021年に「再エネ100宣言RE Action」に参加し、2021年度からグループ全体で使用する電力をすべて再生可能エネルギー由来の電力にすることを宣言しています。糸プロジェクトによって建設された「いとまちマルシェ」やレストランは「ZEB Ready」の認証を取得しています。ZEB Readyは、再生可能エネルギーを除き、基準一次エネルギー消費量から50%以上の一次エネルギー消費量削減に適合した建築物です。
今回新たにオープンしたITOMACHI HOTEL 0は、環境省が定めた最高ランクのZEB認証を日本国内のホテルで初めて取得しました。同ホテルは街区全体でマイクログリッド(小規模電力網)を確立し、災害発生時には3日間で800人分の非常用電源と水と食を提供できる防災拠点としての機能も併せ持っています。
ZEB認証とは、Net Zero Energy Buildingの略称です。快適な室内環境を実現しながら、建物で消費する年間の一次エネルギーの収支をゼロにすることを目指した建物を指します。
環境省は、ZEBの実現・普及に向けて、4段階のZEBを定性的及び定量的に定義しています。
- ZEB
年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物
- Nearly ZEB
ZEBに限りなく近い建築物として、ZEB Readyの要件を満たしつつ、再生可能エネルギーにより年間の一次エネルギー消費量をゼロに近付けた建築物
- ZEB Ready
ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた建築物
- ZEB Oriented
ZEB Readyを見据えた建築物として、外皮の高性能化及び高効率な省エネルギー設備に加え、更なる省エネルギーの実現に向けた措置を講じた建築物
ZEBの定義について詳しくはこちら
ITOMACHI HOTEL 0の具体的な取り組みとは
ITOMACHI HOTEL 0は、宿泊者が日々意識するきっかけが多くないエネルギーというテーマと向き合うきっかけを提供しつつ、食・アート・客室備品・アメニティを通じて愛媛県や西条市の魅力を再発見することができるようになっています。
ITOMACHI HOTEL 0は、床材に木質由来の再生可能なバイオマスを使用し、カウンターなどの天板にはジーンズの端切れを活用した素材を使用するなど、随所に「循環を意識した工夫」を発見することができます。また、同ホテルは、ゼロエネルギーホテルとしてアメニティにもこだわっています。例えば、客室に設置しているベッドは、金属スプリングの入っていない西川のノンコイルマットレスです。このマットレスは、寝心地の快適さは維持しながら、廃棄物排出量を大幅に削減することができます。また、バスアメニティは、根も、葉も、茎も、植物まるごとの生命力を活かしたオーガニックコスメブランド「NEMOHAMO」を導入しています。
他にも、ホテルで提供されるコーヒーや緑茶、ハーブティーは全て愛媛県産です。愛媛県産の商品や農作物を積極的に使用するなど、コンセプトである「0からめぐる愛媛のたのしみ」を体現しています。
最後に
日本でも、環境に配慮していることを謳うホテルや国際基準を満たすサステナブル認証を取得している宿泊施設数は増えています。しかし、温室効果ガス排出を伴うエネルギー消費が実質ゼロのホテルは、今回紹介したITOMACHI HOTEL 0が国内初です。
石油や天然ガスの価格高騰の影響で電気代が上がったことで、エネルギーについて考える機会は増えたように感じます。次世代の社会におけるエネルギーや循環社会を考える際は、是非ITOMACHI HOTEL 0に宿泊し、思いを巡らせてはいかがでしょうか。