サステナブルツーリズム – earthexplore

アムステルダム市内を巡る!サステナブルで住民目線な自転車ツアー

アムステルダム市内を巡る!サステナブルで住民目線な自転車ツアー

人口よりも自転車の方が多いと言われるアムステルダムで、自転車のシティーツアーに参加しました。ツアーは、休憩を含めて合計3時間、アムステルダムの中心部をぐるっと一周し、合計15キロ程度移動しました。街や建物、歴史だけでなく、気候変動によって直面している問題についても知ることができました。

サステナブルツーリズムの観点からも、自転車での観光が注目を集めており「サイクルツーリズム」と呼ばれています。自転車は、ガソリン車とは異なり、どれだけ走っても二酸化炭素や温室効果ガスを排出することはありません。また、スピードを落として移動すると、バスや電車では見ることの出来ない街の風景や人々の日常を垣間見ることができるなどのメリットがあり、日本国内でも広がりつつあります。

風速8メートルの逆風を行く

冬のアムステルダムは、曇りがちで風が強いです。あまりの強風で停めていた自転車が倒れるほどでした。ツアー開始前に「すごい強風ですね」と言うと「リアルなアムステルダムが体験できるね」とガイドは答えてくれました。また、ツアーの開始前には、安全のため、右後ろについて来るように言われました。(アムステルダムは右側通行のため、左側で追い越します。)しかし、あまりの強風で私は前に進めず、気が付いたらガイドと25メートルほど距離が離れてしまいました。坂道では、自転車を降りて引く私を横目に、現地の方々は風をものともせず進んでいました。

オランダといえば、風車を思い浮かべる方も多いと思います。この日見た風車は、残念ながら回っていませんでしたが、強い風が吹くからこそ、風車と共に繁栄した歴史があるのだと感じました。オランダの風車には2種類あります。1つは水を汲み上げるため、もう1つは産業のため(小麦などの穀類を粉に挽くため)に利用されてきました。風車は、風を大きく受けるために高い位置に設置されています。

植民地支配していたアジアの文化

アムステルダムのツアー

私は、AmsterBike社主催のツアーに参加しました。スタート地点は、アムステルダム中央駅の近くです。まずは西の方へ向かいます。その途中で、オランダが植民地として支配していたインドネシアを彷彿とさせるデザインの建物が目に入ります。

ガイドに「オランダのおすすめの料理は?」と質問すると、「インドネシア料理」と返ってくるほど、インドネシアの影響を建物だけでなく食文化に関しても受けていることが分かります。

建物は壊さずに再活用する

日本では、新たに建物を建てる場合、現存する建物を一度解体することが一般的です。しかし、アムステルダムでは、外観を適切にメンテナンスし、内装を変えることで、建物を壊さずに活用しているケースが多いそうです。例えば、穀物倉庫として使われていた建物が、今はマンションとなっています。

また、アムステルダムは、ダムでせき止められた泥炭の上に建てられた街のため、地盤がとても柔らかいです。その為、建物の下には、建物を安定させるために砂と長い木の杭が打ち込まれています。地盤の柔らかいアムステルダムでは、多くの建物が木造建築です。オランダは、国土面積が小さく、建築に必要な木材を調達する十分な森林がありません。同国は、昔から多くの木材をドイツやスウェーデンなどの近隣国に依存してきました。木材は、決して安価な素材ではありません。しかし、耐久性があり、内装を変える際にも取り外しやリサイクルのし易さから、最も扱いやすい素材として重宝されています。

こちらの建物は、少し前方に傾いています。原因は、下に打ち込まれた杭の劣化や地盤沈下です。これらの建物は、一見石造りの家のように見えますが、中は木造です。外側の石は、ハサミのような形をしている金属製の金具で内側の木に打ち込まれています。

さらに、家の上部には、フックのような金具が付いています。アムステルダムの古い家では、空間を可能な限り有効活用するため、階段の幅はとても狭いそうです。その結果、人々は、フックに車輪をつけて物を持ち上げるようになり、今でもフックを利用した物の持ち運びは行われています。ガイドは、「アムステルダムでは、力持ちの友達がいれば引っ越しが出来るよ」と冗談混じりに話していました。

アムステルダムのツアー

こちらは、日本でも目にするアオサギです。ガイド曰く「本来は水辺にいるはずなのにここにいるということは、誰かが餌を与えているんだ」と教えてくれました。アムステルダムには、野良猫ならぬ、野良アオサギがいます。

気候変動によって起こっていること

気候変動によって引き起こされる物理的被害は、国や地域によって異なります。日本では、大型台風の上陸や大雨による洪水で地滑りや堤防の決壊といった被害の頻度が増えています。オランダは、国土の4分の1が海抜0メートルの低地です。地球温暖化によって海面が上昇すると街が浸水してしまいます。オランダ政府は、浸水対策として防波堤の設置を進めていますが、同国が抱えている問題は、それだけではありません。

オランダでは、2019年頃から夏の過去最高気温を連続で更新しています。アムステルダムの建物の下には、長い木の杭が打たれていますが、乾燥や暑さで水が蒸発すると杭が水から出てしまいます。その結果、杭の劣化が早まってしまうという問題に直面しています。また、冬は気温が下がる地域のため、オランダの多くの家屋は、光を多く取り込み、光から熱を吸収し、部屋を温めるために大きな窓を設置しています。しかし、夏場の気温が高くなると、熱が部屋に篭ってしまいます。冬場に部屋を温めるための大きな窓が、夏場では逆の効果を発揮してしまっています。

自転車は理にかなっている

アムステルダムの至る所で目にする自転車ですが、昔は多くの自動車が、旧市内を走っていました。便利になった一方で、自動車による交通事故で多くの市民の命が奪われたため、安全なサイクリング環境を求める社会活動が起こりました。

自転車はアムステルダムの土地にも合った移動手段です。街歩きをすると分かりますが、道幅が狭いため、自動車が一台止まると、後続車が低速で進んだりすぐに止まったりを繰り返し、渋滞が発生してしまいます。その為、アムステルダムの人々は、宅配の荷物やウーバーで注文した食事が指定の時間より遅れても、穏やかに待てるそうです。

市民社会を中心に自動車の排気ガスによる大気汚染や騒音、駐車による狭い道路の占領といった問題に対する声が大きく上げられるようになりました。アムステルダムでは、自動車を減らす取り組みが進められ、2030年から市内でガソリン車やディーゼル車の走行は禁止することが決定されています。また、新たに建てられるマンションやビルには、基本的に自動車のためだけの専用駐車場を建設できません。さらに、自転車優先の道路整備や自動車用の道路の道幅を狭めることで、速度を抑制する取り組みなどを行っています。他にも、地下に駐車場を設置することで駐車による道路といった場所の占領を無くしています。

アムステルダムのツアー
地下に450台も駐車できるようには見えないので、不思議です。

運河の街アムステルダム特有の課題

アムステルダムには、無数の運河があります。運河には、ハウスボートが停泊しており、船内で生活をしている市民もいます。アムステルダムらしい、とても素敵な風景のように思えますが、実はプライバシーのために道端に植物を植えてしまう人やフェンスを設置してしまう人が後を立たず、市と住民のイタチごっこになっています。

アムステルダムのツアー

ツアーの最後は、オランダ名物のストロープワッフルを頂きました。薄いワッフル生地の間には、甘いシロップが挟んであり、疲れた身体に甘さが沁みました。

最後に

ツアーを通じて、街づくりだけでなく、アムステルダム市民の考え方についても触れることができました。アムステルダムの市民が多様な価値観に寛容な背景には、これまでの歴史が関係しているのだと知りました。オランダは、アムステルダムやヨーロッパ最大の港であるロッテルダムがあったことから、貿易や金融の中心地として、多様な価値観を受け入れる寛容さを持ち合わせています。現在のオランダの国づくりにもその寛容さが反映されており、オランダは世界で初めて同性婚を認めた国でもあります。

また、アムステルダムは、市政にドーナツエコノミーの概念を導入しています。同市は、市民との対話を大切にしながら、地域の人々が幸せに生活するための取り組みを今後も推進していくのだろうと思います。

日本は、オランダと同様、国土面積は大きくありません。また、エネルギーや食料資源を海外からの輸入に依存している点も似ています。オランダ人には、倹約家な人が多いと言われています。その国民性も相まって、街の中で見る建物やホテルのサービス一つとっても「本当に必要なのか」という考え方が根本にあるように感じます。この考え方は、ぜひ日本でも広まって欲しいです。

アムステルダムのツアー

最後に、ガイドが、サステナビリティに関して話していた言葉が印象に残っています。「サステナビリティとは、全ての人を包み込む、インクルージョンの要素も大切だと私は思ってます。アムステルダムの街並みは美しいですが、車椅子を利用している人にとっては不便かもしれません。私は、アムステルダムが歴史的にも色んな人を受け入れてきたように、インクルーシブな街になってほしいと思っています」この言葉は、地球の繁栄を目指す「ドーナツエコノミー」を市政に取り組んでいるアムステルダムの人らしい回答だなと、感じます。今後アムステルダムが、どのような街になっていくのかこれからも注目していきます。